第3回
「いちのや」 南大塚3丁目44番11号
その店には歴史がある。
そして、昭和44年より店を守るおかみさんにも歴史がある。(昭和44年大塚駅南口の駅前では多くの建物が建て替えられた。)
そんな店「いちのや」を訪ねてみた。70をとうに越えたであろうおかみさんは小柄な人である。店は10人ほどが座れるカウンターと、小さな座敷に座卓が2つ。小柄なおかみさんでも見渡せる造りになっている。
 カウンターに座り、最初に頼んだのがハッピーセット。生ビール(小)と肉豆腐と日替わりの小鉢が2つ。値段が1,000円。財布にやさしい。
手にした箸が珍しい。割り箸ではなく、使いこまれた重みのある木製のものだ。
焼酎も何杯か飲んだところで頼んだのが「ピンピン焼き」。
オリジナルのもので、すりおろした山芋にえび、貝、イカなどを混ぜ鉄板で焼き上げてある。面白い食感で、まるで雲を食べているようだ。そのネーミングも男性の精力増大の意味らしいが、年齢を重ねたおかみさんだと、いやらしさなどなく愛嬌を感じる。
手作り餃子や、注文されてから串に刺す焼き鳥などは、作り手の暖かさが伝わる一品である。
そしておかみさんからは大塚の昔話を聞くことができる。
「某ガラス屋さんの息子さんは体型が親父さんに似てるけど、しっかりしてる。」「寿司屋のちゃむちゃん(本当は修さん)は死んだ爺さん、そっくりになってきた。」など。
たわいのない話だが興味深い。古き事を新しく知る喜びもある。大塚の昔話を肴にゆっくりと酔う。そんな中で一句。
隠れ家に
安らぎ
 泌みて
 今宵酔う
飾り気のない店である。こちらも着飾る必要がない。人それぞれの人生を感じつつ、懐かしい香りのする店をあとにした。


小料理 いちのや
東京都豊島区南大塚3-44-11 アイリスビル1F
電話:03-3983-6478